マニアック景観

特化マニア御用達

 

1) 百花繚乱の趣味景観

  趣味の世界における多様化には目を見張るものがある

  今から17・8年ほど前にヒマをもてあましたあげく 趣味一覧をまとめたことがある

  今回その資料を引っ張り出してきたものの そのジャンルの拡がりにはただ驚くばかりだ  

  個人の楽しみを自分本位で追求する あるいは同好の志を求め

  より深みを求める傾向はさらに加速しそうだ

  同時に景観的なものにも多様なものが求められていく傾向にある

 

2) 路上観察学からの展開 

  いつごろからなのか記憶をたどってみると

  いわゆる正統的な景勝・景観とは別に 珍奇なものを見て楽しむという傾向は

  路上観察学からのような気がする

  赤瀬川原平・南伸坊・藤森照信などの面々による街角の風景の再発見は

  以降の自由な個人の景観志向に先駆けた印象が強い

 

3) ネット時代とデジカメの普及 

  それ以降に起こったパソコン文化による個人の発信の容易さが

  それまでは自家出版という形での情報発信に替わってきた

  インターネット時代 デジカメの普及と記憶機器 通信スピードの向上

  データの圧縮技術の進歩で

  だれにでも実際の書籍以上の情報量を簡単に発信できるようになった

  そこでの情報化は全国的あるいは世界的な拡がりを獲得し

  相互作用の中から さらに多様化・深化を遂げることになった

 

4) 景観対象の多様化と深化

  景観についても何でもありの様相で一昔前までは人が避けるようなマイナス的な景観も

  一部の人にとっては面白がる対象となってきた

  いわゆるマニアックな景観である

  こんどはそれらの編集を書籍にしての刊行が行われ

  より一般化して TVなどにも紹介され市民権を得ることになる

  鉄道マニアはもとより廃墟マニア・工場マニアなど

  一般人にくわえ著名人も もはや堂々とその趣味を宣言し

  入り乱れて楽しむ状況となり 完全に認知された時代となった

  さらにはかつては男性オンリーと思われていた趣味の世界への女性の進出も

  上記傾向に輪をかけることになったようだ

  となると景観対象としても それらマニアックな景観も

  地域の特性として把握しておく必要がある

  以下ジャンル別にその多様化・深化を眺めてみたい

 

5) デジカメの進化

  その前にデジカメの進歩と普及について少し考察をくわえなければならない

  戦後カメラ業界の発展については言い古されているが

  ライカをはじめとするするいわゆる距離計カメラの時代から

  一眼レフの普及が日本のカメラ業界が世界標準となったわけであるが

  それと同時にカメラを持つ国民性がさらなる発展を支えた構図がある

  露出の完全自動化にくわえ ピントの自動化も

  その市民の要求に応えた業界の努力の結果でもある

  そこにデジタル化が拍車を掛け もはや写真をとることは誰でもできることになり

  プロに負けない いわゆるハイアマチュアと呼ばれる人達が出現することになった

  とくに驚くのは高齢の女性のカメラを持った姿で

  高級な一眼レフのデジカメに高性能なレンズをいくつもぶら下げた

  おばあちゃんの群れをあちこちで見かけるようになった

  日本の写真業界をアマチュアを支えているといわれる所以である

  もちろんそれは若い女性にもみられるのだが

  こうした傾向が上記マニアックな景観志向に多大な影響を与えていると思われるのだ

  登山や旅行など昔からの趣味にマニアとして参戦することになるのだ

 

6) 自然関連

  古くから自然景観は尊重されてきたのだが細分化したマニアが出現した

  山でいえば全国の○○富士・百名山などは当たり前

  昔からの自転車乗りたちのパスハンターも峠趣味として公認され

  滝、岩壁など また浜辺ばかり集めた写真集も見たことがある

  巨木・巨石ハンターなどもこの範疇に入りそうだ

 

6) 乗り物関連

  乗り物も昔から好きな人が多く 陸・海・空とそれぞれのジャンルがある

  飛行機でいえば旅客機か軍用機 景観とは離れるが自衛隊機全機撮影という趣味

  景観的には飛行場や航空ショーがマニアの活躍場所となる

  同じように船舶も民間船から軍艦まで幅広く この場合は港が主体

  だがなんといっても近年の鉄道マニアの増殖は異常とも思える

  いわゆる鉄ちゃんという世界で 車輌そのものから線路風景 駅舎など人気が高い

  前にNHKの熱中時間を見ていたら 鉄道の防雪林だけを撮影行脚する人がいた

  陸関係ではバスも古いボンネットバスだけでなく近年の注目株となっているし

  トラックや消防車など特殊車輌にもファンがいる

 

7) 歴史関連

  歴史マニアも幅広い 縄文・弥生の古代遺跡から古墳関係および謎の古代天皇時代

  続いて東山道など古代街道 さらに戦国武将の城址 合戦場などは若い女性も参戦

  近世江戸期でも幕藩体制に関する分野や街道 庶民生活では近年エコ的にも人気だ

  いわゆる近代の明治期では産業遺産や軍事関連 大正ロマンティシズムの時代から

  太平洋戦争関連の旧日本軍遺跡 そして戦後高度成長時代にいたるまで豊富

 

8) 建造物・土木構造物関連

  鉄塔や煙突また巨大仏に特別な思い入れをもつ人 ダム・橋などの土木構造物や

  はたまた全国の石垣だけの写真集もみかけたことがある

  超高層ビルや団地の専門家も出現 観覧車やジェットコースターのフリーク

  マイナス景観でもあった工場群や廃墟などもこの範疇にいれるべきかどうか

  長崎の軍艦島や松尾鉱山周辺などは歴史遺産でもあるし廃墟趣味の対象でもある

 

9) 集落・街並・盛り場・都市関連

  いわゆる重伝建(重要伝統的建造物保存地区)にあげられるような集落や街並みは

  マニアだけでなく観光客にも人気だが 旧遊郭をはじめとする盛り場あるいは歓楽街を

  訪ね歩き記録するフリークもいる

  また銭湯建築や看板建築もその文脈で読まれるものだし

  日本坂道学会の副会長のタモリも有名で 横尾忠則のY字路探求も話題となっている

 

以上みてきたようなマニアックな風景は個々にはそれぞれは狭い範囲でもあるのだが

そこには歴史的・社会的・文化的背景が必ず含まれており

結果としてそれらを追及する知的な満足感あるいは美的な快適感をも得るものでもある

ネット社会の相互作用から さらに多様化・深化が今後も進むものと予想される

 

*

2009・12・18

back