直線道路のロングビスタとブロードビスタ

 

  長い直線道路を走るときの爽快感

 

1) 景観における見通し線(ビスタ)

  景色の見え方でもみたように、見るという行為においては、その対象と周辺が存在する

  対象をそのまま注視したり、あるいは周辺との関係を対比したり自由自在に視野を変える

  その際、対象と眼球とを結ぶ見えない線が存在する、すなわち見通し線である

  vista とも言われているが、日本語的にはビスタと呼びたい

  景観が視覚から構成される以上、まことに重要な概念で

  日本・世界を問わず、歴史的な建造物や都市計画において

  その存在が指摘・分析され、さまざまな建築計画・都市計画の場においても応用されている

  ここでは移動する視点という側面から、直線道路とビスタの関係について検討してみたい

2) 水平視野とパースペクティブ=遠近感

  道路上において、もっとも重要な視覚対象は道路の行き先であるが

  その際、周辺の視野は道路を中心としたパースペクティブビューとなる

  いわゆる消点(バニシングポイント)が道路の行き先そのものとなる、1点透視景観である

  そこで重要となるのが水平視野で、視覚は1点を見ながらも周辺も無意識的にみている

  その拡がりとパースペクティブの関係がロングビスタに大きく影響しているようだ

  つまり遠近感をより感じさせるのである

3) ロングビスタとスピード

  とうぜん視点の移動に応じて、周辺の景色は変わっていく

  それは移動のスピードに関連していて、歩行においては、ゆっくりと

  クルマならば周囲の景色は流れるように、変化していく

  その変化が視覚に影響を与えないためには

  同質な空間の連続性、あるいは変化が意識されないほどの

  十分な広さの空間が必要とされる

  また道路感覚自体もスピードに関連していて、スピードが早くなるほど

  道路幅の感覚は狭く感ずるようになる

  歩きにおいては、むしろ道路幅の狭い小道の方が安心感をもつようだ

  同時にそれはビスタの距離(ロングビスタ)に関係があり

  真っ直ぐな道という意識を考える場合、移動スピードが速くなるほど

  長い距離が必要とされるようだ

  以上をまとめると、スピードとロングビスタとの関係は

  スピードが増すほど、広い道路幅と長い直線区間

  さらには無意識視野内に十分な空間=ブロードビスタが必要ということになる

4) 直線道路の認識

  そこで歩行・自転車・自動車とそれぞれのスピードに応じて

  直線道路とロングビスタの関係を考える

 

  ここでは景色のなかで対象物までの距離を、以下のように考えている

  @ 近景………0〜200m     対象物そのもの

  A 中景………200〜500m   対象物がなんであるかわかる

  B 遠景………500〜2000m  対象物を特定できる

  C 超遠景……2000m〜    スカイライン・空・背景

 

  歩行スピードを4km/h、自転車では10km/h、自動車では40km/hと

  控え目に想定して、歩行者では近景から中景に変化する200mとしてみると

  自転車では、その2.5倍つまり500mとなり、同様に中景から遠景への変化点

  さらに自動車においては、その4倍の2000mとなり

  上記超遠景への変化点とみることができる

  同様に高速道路を考える場合なら、やはり速度を80km/hと想定すれば

  4kmの長さが必要ということになる

  ちなみに中央道境川PAから八代バス停までの有名な直線部分は約4kmである

5) 直線道路の快適性

  上記要件が満足された場合、視覚的にほぼ同じ感覚が続くことになる

  安定した感覚であり、リラックスした状態を作り出す

  それは安心感ともいえるもので、さらに溢れる自然の中では

  容易に快適感に転化しうるものである

  ただし歩行あるいは自転車においては自動車運転の快適性とは多少異なる

  外気にさらされた身体は、当然気候状態の影響を受け

  快適性を満足させるには、良好な天候状態が前提となる

  さらに自転車においては、風の条件を大きく受け

  追い風ならば申し分ないが、向かい風の中では苦痛のみが先行する

  次いでいえば、道の勾配も快適性に関連していて

  平坦か下り気味が良いのは自明のことである

市街地から上飯田方面への白山通りは約600mの1車線の直線道路

左が上り 右は逆方向からの下り 上りの方が長く感ずるようだ

 

  ただしバイクでは、むしろ多少負荷のかかる緩い上り勾配を

  トップの下あたりのギアで走った方が、エンジンの鼓動をより感じられて好ましい

  歩行者用の道ではむしろ退屈感あるいは長距離感をさけるように

  直線を設けないケースが多いようだ

  とくに巨大な郊外型ショッピングセンターでは室内通路はできるだけカーブさせて

  計画するということである

  

水の手の松川左岸堤防は直線で300m 左は東方面 右は西方面

 

6) 飯田周辺の直線道路

  以上の見解にもとづいて、飯田周辺の直線道路の特色をさぐってみた

  一般的には標高の高いところの道路ほど、地形の影響を受け

  曲がりくねったり起伏の大きいものとならざるをえない

  したがって川に近く、かつ平行する道路が中心となり

  加えて広い台地を横断する道路があげられるが

  上にあげたような長さが2kmにおよぶ直線区間は多くはない

北部農免道路の高森町側 北の市田方面からから工業団地方面

逆に工業団地から北 市田方面

道路幅は十分なのだが 建物や電柱がブロードビスタに影響している

松尾明の直線道路 長さ1.8km 幅が広くないので前の車輌にロングビスタが妨げられる

国道153号線座光寺付近 約1kmの直線 歩道がついて幅は十分

建物と広告看板が情報過多

今田平は少しカーブしているが ブロードビスタは十分

直線でなくても爽快感

座光寺から飯田市街へ向う 広域農道 通称フルーツラインの直線 これも約1km

段丘に直交する直線道路もある 高森カントリーへの上り 約1km

喬木村小川の県道251号線 矢筈方面から役場方面への下り約1km

この道はパノラマが効くので 見とれていると危険 スピード注意の立て看板

前にタイヤを脇に落としたクルマを見たことがあった

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2009・10・28

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