読書日記保存版2000年 home
12月25日(月) A
「松永 真、デザインの話し。」 松永 真 (株)アゴスト 2500円
CG関係誌「アゴスト」への3年前からの連載。グラフィックデザイナー松永真の、いままでの仕事は確
かに見事だ。1940年生まれだから、興味があるのは、今後の方向。すでにこういう文章を書くことすら
老成した証拠。最近の作品にはそんな匂いがチラリとみえる。希望に燃えるデザイン学生は、また大多
数の市井のデザイナーはどう読むか。人間の「生かされ方」を考えさせられた、午後のひとときだった。
12月12日(火) A
「日本民家の造形」 川村善之 淡交社 3400円
京都芸大名誉教授が、民家の細部をすべて写真で説明。総アート紙323頁で、ずっしりと重い本だ。
建築史というよりも、美術造形からの見方で、いつもと角度が変わっていて、面白い。屋根、棟、破風、
軒、外壁、玄関、窓、建具、土間、床、天井といった部分から、生活の場としての各部屋の意匠と、蔵、
門、庭までも。さらに民家の種類から建造物群、町並みと、抜かりなく紹介している。事典というべき。
11月15日(水) A
「目で見る仏像」 完全普及版 田中義恭・星山晋也 東京美術 3000円
みうらじゅんの感化で借りてきた。完全普及版とはどういう意味かはわからないが、 如来、菩薩、観音
菩薩、大日・明王、天、羅漢・祖師にわけての全776頁の解説は充実の一言。世相と経典の解釈を受
けて、新しい仏像がうまれる様は、仏教のダイナミックな一面を見るようだ。他の宗教の厳格さにくらべ
ての、この柔軟性が、どこからくるのか興味深い。もしかしたら、日本人の本来もっている特性なのか。
9月19(火) A
「都市のエコロジカルネットワーク」 (財)都市緑化技術開発機構・編 (株)ぎょうせい 3333円
人と自然が共生する次世代都市づくりガイド。緑と水は都市計画において、人間の居住環境を確保す
る意味で、さらに重要度を増す。ここでは、もう一歩すすめ自然環境、とくに生物の棲息を担保するも
のと、緑と水をとらえている。そのための技術論だが、定量的な目標をどう設定するか、今後の課題。
9月14日(木) A
自然とともに生きる絵本作家「ターシャ・テューダーの世界」 ブック・グローブ社 1900円
アメリカの伝説的な絵本画家の、展覧会にあわせたムック。1915年生まれの細いおばあさん。古い
ニューイングランドの画風も懐かしい。女手ひとつで4人の子供を育て、シェーカー・スタイルそのまま
ガーデニングを楽しむ、自給自足の、現役の画家。そんな生き方に、鳥肌がたつような感動を覚えた。
9月6日(水) A
「悪臭学・人体篇」 鈴木 隆 イースト・プレス 1500円
書名から強烈。香料会社に勤める著者が人体各部からの臭いを文化人類学的に語る。目次を書くの
も遠慮したい。しかし仏文出身、文章は格調高い。たとえば精子はなぜ前進するのか、匂いを感じてい
るんじゃないか、の仮説も。いわゆる悪臭の研究は、生物学の新しい地平を開くものと、確信している。
8月26日(土) A
「東京私生活」 冨田 均 作品社 2800円
散歩者を自称する下町出身の著者の消えゆく風景への鎮魂歌。ここまでこだわるのか、同世代なが
ら地方出には理解不能。喫茶店の項で、お茶の水、とちのき通りの今はなき「マロニエ」を紹介。当時
店内に電話がなく待ち合わせに苦労した。この本によれば店の前に赤電話があったという。記憶なし。
8月14日(月) A
「RE DESIGN 日常の21世紀」 (株)竹尾・編 原 研哉・構成 朝日新聞社 3000円
20世紀は戦争の世紀であるというが、デザインの世紀でもあった。この世紀末の身近な物品を、斯界
の建築家、デザイナー、写真家、プランナー、物書きにあらためて考えていただこうという趣向。紙屋の
主催、すべてが紙製品として美しく製作されている。皆がデザインする中、D.助川の日めくりが笑えた。
7月19日(水) A
「建築のかたち百科」多角形から超曲面まで 宮崎興二 彰国社 3000円
ちょっと超えた感じのする、京大大学院の建築の先生が、数学的空間図形から、建築形態を論ずる。
その皮肉たっぷりの語り口、講義はさぞやオモシロそう。モニュメンタルな建物ほど、数学的な形態を
とるのは当然、そこから3次元立体を超える、4次元立体を想像させることが、建築の姿であるという。
7月16日(日) A
「器物語」知っておきたい食器の話 ノリタケ食文化研究会 中日新聞社 2000円
新聞連載を元にまとめた、わかりやすい食器論。陶器、磁器、漆器、ガラス、カトラリーほか小
物まで。洋食器のみならず和食器から、テーブルコーディネイト、ブランド食器まで、あますと
ころなく説明。食器の話は好き嫌いで片寄りがちなだけに貴重。入門書としてはまことに秀逸。
7月12日(水) A
「オタク・ジャポニカ」仮想現実人間の誕生 エチエンヌ・バラール 河出書房新社 2200円
仏ジャーナリストに よる日本社会論。消費社会が、行きついたなかでの集団国民性、母親との密着性
と、もう一方の画一的な勉強ストレスがオタクをうむという。岡目八目的に明快に分析し、カルトの出現
とを関連づける。世紀末の徒花かは不明だが、いくらか現代若者の苦悩が、わかったような気がした。
7月8日(土) B
「ひとり勝ち社会」を生き抜く勉強法 中山 治 洋泉社 1500円
怪しげな書名と著者。でも今回、意外にいいことを。とくに日本論、日本人論としては、新鮮な見方で
共感を覚えた。その中で本は買わなきゃいけない、図書館の本を借りて読んでも知識にはならない、
という点については大きく反論。実用書としてよりも、生き方、哲学書として読んだほうがいいとも思う。
6月8日(木) A
「屋根のデザイン百科」 武者英二・吉田尚英 彰国社 4200円
法政大学建築学科武者研究室10年の成果、とあとがきで書いている。たしかにこれは有用だ。
設計屋ならば蔵書としておくべきもの。屋根は建築でもっとも重要な部分で、その詳細は日本の
風土でつちかわれた先人の知恵の結晶でもある。作例に東洋大学豊丘セミナーハウスを発見。
5月31日(水) A
下伊那写真帖「伊那谷今昔」 原 守夫 南信州新聞社出版局 限定200部著者謹呈
これは面白い。大正4年出版の写真帖の88年後の現在をたんねんにたどり、同じアングルで対照
させた郷土写真集。苦労が偲ばれる。季節もあろうが、緑の量が、ずいぶん増えているのは不思議。
人間の記憶が、次々と新しいページをつくり、古いのは忘れていくのを実感。3500円で普及版あり。
5月20日(土) A
全国各地の霊場を巡る「日本百観音」 後藤 博 みちのく書房 1650円
四国遍路からやみつきになり、秩父三十四番、坂東三十三番、西国三十三番の百観音巡り。どうでも
いいやと借りてきたけど、なかなかどうして。紀行と寺紹介、私事の塩梅の良さと、人柄がにじみ出るよ
うな文章。大正14年生まれ山形在住のご隠居。「日本の田舎にもこういう人がいる」と、うれしくなった。
5月3日(水) A
「面接官の本音2001」 辻 太一朗 日経BP社 1400円
元リクルートの人事担当があかす面接の実態は、いままでの面接本のなかでは、もっとも骨がある。
理想の面接を追求するあまり、担当側の「面接道」の存在すら感じられる。読者もそちらの方が多い
のではないか。すると、中年のオジさんには、プレッシャーとなったりして…。いやはや、大変である。
まあここまで理想の人間はそうはいない。最低の条件、コミニュケーション能力だけは養っておこう。
4月26日(水) A
ザ・スタッフ「舞台監督の仕事」 伊藤弘成 晩成書房 3502円
この出版社すごい名前をつけたもんだ。単なる仕事本と思ったら、そうではなかった。すでに第6刷
高校演劇部のための舞台バイブル、大道具、音響、照明などイラスト入りでわかりやすい。演劇に
のめり込んで、こういう本で、深みにはまっていく。この世界を味わったら、他にはいけないだろうな。
4月20日(木) A
路上写真の新展開「フォトモ」 非ユークリッド写真連盟 糸崎公朗・森田信吾 工作舎 2800円
写真(フォト)をそのまま切り抜いて模型(モ)をつくる、つまりは立体写真である。いや写真立体という
べきか。街の一角の再現などには不思議な魅力。さまざまに写真を加工し、現代芸術としてあそぶ。
こういうのを非ユークリッド写真と自称する。こんなのは初めてで新鮮だ。今後の発展に注目したい。
4月2日(日) A
「心配しないで−当世女子大生告解録」 小沢章友 新潮社 1200円
だいぶ迷ったが、NHK−FMのクロスオーバー・イレブンでときどき耳にする、ゴロのいい著者の名前で
借りてきた。これもありかよ、という感じ。短大での作文講義−人生を流れる4つの時間、「感動」「怒り」
「涙」「笑い」−を書かせまとめたもの。しかしうまい文章だ。笑わせるし、泣かせる。読んでソンはない。
3月16日(木)
「シンメトリーな男」 竹内久美子 新潮社 1400円
予定していた仕事がストップになって、一気に読んでしまった。この動物生態学者が言うには
人間をふくめオスの選ばれる理由は、シンメトリーにあるとか。あらゆる意味で左右対称男が
優秀なんだそうだ。しかし中年以降の免疫力の低下した時、やられやすいというオチがつく。
1月23日(日)
「ファッション ビジネスはこう変わる」 小島健輔 こう書房 1600円
いやー読ませる。初版発行は平成10年4月で第5刷、1月11日の読書感想を訂正したい。つまり
ファッション業界だけでなく、社会的感情を変えざるをえないのだ。この不況下でも勝者はいるのだ。
そして変えられなければ消えゆくのみということ。しかし、その勝組も明日はわからないのだ。
要は効率とQR(クイック・レスポンス) 消費者の要求に、いかに素早くこたえられるかということ。
2000年1月4日(火)
「スーパー・ストラクチュア」 田中直毅 講談社 1600円
高度資本主義社会の向こうには何があるのか。いままでそれに答えてくれた本は無かった。
確かにスーパー・ストラクチュアが存在し、それに向かって世界が動いているのかも知れない。しかし
例えば北朝鮮についてそれを認めるにしても、個人的な感情と、どう折り合いをつけていくのか。