景観ノスタルジア

追加/「帰らざる日々」 リバイバル上映jump

 

1) 個人的な記憶の光景

  それぞれが持っている個人的な記憶の風景は そこにいた過去の自分とともに

  光景として蘇ってくるのであるが

  時間の経過とともに都合の悪いことは忘れる傾向にあり

  懐かしい思いは 当時の風景をも美化させてしまう

  また子どもの頃の風景は その視点の高さ あるいは体格に応じているので

  再訪すると当時の空間スケールとの違和感を抱くこともある

  そしてなによりも風景自体が時間とともに変わっている

  だから期待していた風景は 軽い失望感を覚えながら

  帰らざる日々とともに また記憶の底に封印することになる

 

2) 共有する時代の記憶−記号としてのノスタルジア 

  そういった個人的な記憶とくらべると 社会としての記憶は記号化されやすく

  抽象化された時代の記憶としての共有は簡単である

  たとえばビートルズ世代といわれるものだが 三浦展が指摘するように

  当時ビートルズに熱中したのは全国的にみれば ごくわずかで

  記憶はウソをつくというが 今では猫も杓子も熱中したように 本人すら思っているのだ

  景観に関しても そこに登場するのはあくまでも現在の自分である

  木造校舎に学んでいなくても それに感じるのは時代の記憶だ

  どこか懐かしさを感じる景観 郷愁をそそる景観といわれるものであるが

  それでも現実的にはせいぜい祖父母の時代までであり

  それ以前はむしろ知識欲としての歴史探訪ということになろう

  それらは歴史景観というべきものでノスタルジアとは別ものだ

  近年昭和レトロの街・大正ロマンの街など観光資源としてのまちづくりは人気だが

  いわゆるテーマパークとしての存在には味気なさを感じる

  その時代から連続しているという生活感こそが大切なのではないかと思う

 

3) 和みの集落景観−懐かしさとしての集落景観 

  以上の観点からみると 歴史のある集落の風景を目の当たりにして感じる郷愁感は

  子どもころの記憶の風景であるとともに あまりにも進みすぎて、複雑化し過ぎた

  現代社会以前の 時代への懐かしい思いでもあるような気がする

  そこには 貧しいけれども地に足のついた確かな暮らしがあった

  細かくみれば幾多の問題もたしかにあっただろうが

  ただ、今としてみれば 穏やかで豊かな生活があったように思う

  またそれらは時間の経過の中で 古びていく素材で出来ており

  自然の中でアースカラーとして 周囲と調和した風景をつくりあげている

  さらに大事なことは そこに現在暮らしている人がいる生活空間があるということで

  移築された民家群を眼にすることとは異なるような気がする

 

@ 南面集落風景

  南に向って傾斜した斜面に点在する古い民家を眺めるときに感じる落ち着きは

  日照・採光・通風など居住性の良さに加え 眺望の良さも満足する

  見る側からすれば太陽を背にする順光で メリハリの利いた明るい風景で

  なんとなく豊かさを想像させることにあると思う

  山間に点在する急斜面の集落も ほぼ南面していることに留意しておきたい

 

A 散居屋敷林風景

  一方平地に点在する農家の風景は一般的に防風用のいわゆる屋敷林に囲まれ

  母屋と長屋さらには土蔵をふくめた屋敷は生垣あるいは立派な塀で区画された

  周囲の田圃の広さとともに どちらかといえば豪農の印でもある

  とくに安曇野の春先 まだ白く輝く北アルプスを背景と前山の緑

  さらに雪山を写しこんだ田植え前の水田に囲まれ散居する民家風景は絵になる

 

B 町屋集積風景  

  古い街道沿いに存在する宿場風景

  一般的には主要道路からは外れたために今もって狭い道路空間は

  人間の歩くにはちょうど良いスケール感を持っている

  長い歴史の中で 幾多の火災をくぐりぬけ、時代に応じて再建された建物は

  よくみるとそれぞれ異なってはいるものの全体的には統一感はある

  住んでいる人たちは観光産業が多いものの そこでの生活の息吹は感じる

 

4) 季節のノスタルジア

  自然風景の中で感じる懐かしさには季節の要素が不可欠である

  同じ様に巡ってくる季節の中で 来し方行く末を想い感傷にひたるのだ

  ここではごく私的な心象風景のノスタルジアを綴ってみた 

 

@ 雪景色

  低気圧の通過によって夜半から降り始めた雪は朝には止んで10cmほど積もった

  ゴム長を履いて近くの神社に行った帰り 拘置所裏の崖の上に立って

  一面雪景色の眼下の鼎の町、その南側の段丘のパノラマ風景を眺める時間

 

A 春の青い空

  新緑の季節 松川堤防のドウダンの植え込みに巣があるらしく

  騒々しいくらいのさえずりとともに雲雀がせわしく羽虫を追いかけている

  一方同じく子育てに忙しい燕も その周辺で優雅な飛翔を見せつける

  さらにその上の鳶が悠々と弧を描いている空を見上げている時間

 

B 打ち上げ花火

  夏の終わりの夜空に合図の花火が上がってスターマインの打ち上げが始まる

  それほど大きな花火でもなく また綺麗な円形になるわけでもないが

  数十発連続して開く数分の間 星の拡がる軌跡をただただ見ている時間

 

C 稔りの風景

  いよいよ刈り取り寸前の稲穂の続く田圃風景は

  多分DNAに刷り込まれているのであろう

  農家とは何の関係もないのに 無事に稔りを迎えた喜びを豊かさと感じながら

  あるいは土蔵の脇の樹一杯に実った柿を見ながら歩き過ぎる時間

 

2009・12・11

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追加/「帰らざる日々」 リバイバル上映

(2012・10・13)

1978年の日活・青春映画 「帰らざる日々」 原作・脚本は飯田出身の中岡京平

撮影のほとんどを飯田市でロケしたらしく 当時の飯田長姫高校の木造校舎をはじめ

飯田市の風景が出てくるというので 話のネタにと数十年ぶりに映画館に足を運んだ

千劇シネマズ ここは昔は中劇といって東映のチャンバラ映画が主だったが 今は3スクリーンの映画館

小学生たちは別の映画を見にきたようだ

 舞台は1972・78年の飯田市 1976年のアリスの同名のヒット曲を主題歌に

ちょうど10年くらい後の世代の物語で 観客 3・40名はやはり団塊女性が多かったようだ

タイトルバックは新宿発 「急行アルプス」 当時飯田まで 6時間 早く帰りたいという気持ちに

辰野で信濃森上行きから切り離された2両の飯田線での時間は ほんとに長く感じられたもの

そんな情景とともに 学生の頃へ一気にタイムスリップ

監督は藤田敏八 主演は永島敏行・江藤潤 脇を母親役で朝丘雪路 同棲相手役を根岸とし江

さらに中村敦夫や吉行和子 若き日の中尾彬や小松方正・草薙幸二郎 となかなか多彩な顔ぶれ

*

「Bye,Bye,Bye 私のあなた Bye,Bye,Bye 私のこころ…」

しばらくは センチメンタルな気分を引きずって アリスの曲のサビ部分を いつしか口ずさんでいたりした

 

追加おまけ 「アニメのワンシーンのように。」Akine Coco写真作品集

(2021・3・25)

図書館の若者向け新刊コーナーで見つけ パラパラ 新海風のイラスト集かと思えば

そうではなくて写真集 その郷愁感溢れる写真が SNSで大評判だという

何らかの加工を施してはいるかもしれないが 福井在住の正体不明の若者?

 

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