山見えビスタ

 

1) 山というものの存在

  毎日の生活の中で眼にするスカイライン、その構成物である山は景観の大きな要素である

  そこでは一般的に仰ぎ見るかたちになり、憧れや尊敬といった心情が生まれやすい

  その大きさ、あるいは高さ、さらには山容の美しさから、人間を超えるものとして意識されてきて

  ともすれば神聖化されやすい存在でもあり

  富士山・浅間山・御嶽山・白山・大山・三輪山・英彦山など、信仰の対象となっている例は多い

  また山岳展望という言葉もあって、地図上の山と実際の山とを対照させる山座同定という趣味も盛んだ

2) 地域のシンボル−小学校校歌と山の関係

  飯田市の場合では、信仰の対象とまでにはいたるものはないが、それでも風越山には

  山頂近くに神社がつくられて、遥拝所が街中にもあったようだ

  ただ地域のシンボルとして意識されるケースが多く、学校の校歌にも歌われることになる

  飯田市街地の小学校の校歌では、風越山が歌詞に入っている

追手町小学校と風越山

 

  伊賀良小学校では笠松山

左の主峰が笠松山

  山本小学校では高鳥屋山である

高鳥屋山と山本小学校

 

  いずれも中央アルプスの南端の山塊としてちょうどいい大きさであり、

  また地域からは北西に位置しており、日の沈む方向にあることなどから

  ほどよい景観対象として意識されているようだ

  また三穂小学校の校歌では水晶山が歌詞に入っている

右の峰が水晶山

 

  水晶山はその近くの城山や二ツ山と同じく、他地域からは里山的な存在でもあるが

  山容が整っていること、三穂地域からは北西にみえること、さらに高さと距離とのバランスの良さから

  意識が強いのであろう

  ところがそれより東の地域、あるいは天竜川の東の地域の小学校の校歌では

  具体的な山の名前は入っていないのだ

  つまり風越山はまだしも、笠松山・高鳥屋山は遠すぎて、たんなる日の沈む西山としての

  意識でしかないようだ

  それらの地域では東の伊那山地も山容のはっきりしない連なりであり、南アルプスも

  そこに邪魔されて見ることができない

 

  なお飯田市の北部座光寺地域においてのシンボルは座光寺富士と呼ばれている

  この山はちょうど風越山や笠松山・高鳥屋山と同じイメージで、一部をのぞき

  大部分の地域から見えることから、住んでいる人は親しみをもっているようだ

 

3) 季節の彩り

  里の桜の季節が過ぎる頃から、山の緑は多彩な様相を見せるようになる

  樹種のそれぞれに応じた若葉の彩りが、山裾から頂きに向って日に日に面積を増やし

  やがて全山が鮮やかな緑となる

新緑の笠松山のクローズアップ 5月初旬

 

  秋を迎えると今度は落葉樹の紅葉の赤い色が、頂から山裾に向って降りてくる

紅葉が進んで 風越山にはうっすらと積雪 11月下旬

 

  その後ほとんどは立体感の乏しい青一色の山の色がつづくのだがだが

  雪降りの朝には真っ白に化粧された山肌を見上げることになる

  この時には 何故か 大きく近く見える

虚空蔵山から風越山にかけて積雪の朝 3月中旬

4) 観天望気

  飯田市の場合もとうぜん天気は西から変わってくる

  したがって天候の崩れも西山方面の雲の状態、ガスの様子が前兆となる

 

7月初めの雨模様の笠松山と高鳥屋山

ほぼ同じ場所 同様に7月初旬だが雨上がりの虹

 

  これは地域全般にいえることのようで、とくに農業関係の人たちはかなり的確に

  予想できるようだ

  また夕焼けの美しさも、この西山の山の端を印象づけている

  さらには日の入り、月の入りなど天体との関係、あるいは朝一番に朝日に照らされる山容も

  印象深いものがある

2月中旬の伊那山地からの日の出

8月下旬 笠松山の北稜線に沈む夕日

松川河川敷から 春分の日の夕暮れ 高鳥屋山の南に沈む夕日

 

5) 身近な存在−里山あるいは丘

  生活を守る盾のような西山の山塊とくらべ、台地上に点在する小さな山は

  里山としての身近な存在である

  先にあげた山本地区の水晶山や城山あるいは二ツ山などがそれにあたる

  つまりは仰観角度が少ないため山としての意識も少なくなるのであろう

飯田段丘より眺める 左 二ツ山 右 三ツ山

山本の集落から見る 左 城山 右 水晶山

 

  竜東地区では中世の山城でもある神ノ峰も山というより小高い丘のようなイメージだ

松尾城址から見る 神ノ峰

 

  特殊な例としては高松台地突端の御殿山があげられる

  くぬぎ林の里山は昔はカブト虫を捕まえにいくところでもあったが

  近年は宅地開発が進み、山という意識はあまりない

高松台地の突端 御殿山

 

6) 南アルプスの前山 伊那山地

  飯田市の東側、南アルプスつまり赤石山脈の前面には

  1500〜1700mクラスの山々が連なる伊那山地が屏風のようにひかえている

  したがって標高の低いところからは、南アルプスは見ることができず

  その前山の伊那山地を望むことになる  

松川河川敷から見た伊那山地 紅葉が進んでいる11月中旬

ほぼ同じ視点より 伊那山地の上部には積雪 12月初旬

 

7) 雪をいただく南アルプス

  秋も早めの雨の翌日、雪をいただく南アルプスを眼にするとき

  いよいよ冬の到来を実感することになる

  飯田の台地からは東に位置しており、西山とは逆に日の出、月の出を遠望する

  その場所に応じて、南アルプスの見える山は異なっていて

  むしろそれらを総称する、あるいは代表するかたちで赤石という固有名詞が使われることが多い

12月半ばの南アルプス遠望 標高700mの西部山麓線附近から

10月の終わり 飯田城址(標高500m)から 少し見えるのは間ノ岳のようだ

12月初旬 西部山麓線附近から 下に見えるは飯田市街地 左が仙丈岳

さらに西部山麓線を南に行くと 標高があがって南アルプスの連山を望むことができる 2月中旬

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2009・9・25

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